原子系による光の量子状態の制御

これまで、光のスクイズド状態を生成するための様々な方法が 提案されてきた。 例えば、媒質の非線形性を利用した直交位相スクイズド状態の生成や、 半導体発光素子を用いたサブポアソン光の発生などがある。 一方、単一の原子から放射された光がスクイーズし得るということが Walls らによって示された。 しかしながら、これらの方法は光子数-位相の両方の不確定性を 制御するというまでには至っていない。

我々はスクイーズした原子系からの放射を利用することによって、 少数光子の領域で光子数-位相スクイズド状態をはじめ 様々なスクイズド状態を生成する方法を見い出した。 この方法の基本的なアイデアは、はじめに原子系をスクイーズさせ、 そのスクイジングを放射場に映すというものであり、 あらかじめ原子系をうまく操作することにより、 出てくる放射場の不確定性を制御することができる。


原子系におけるスクイジングとは何か?

二準位原子をパウリのスピン演算子で表現すると 複数の二準位原子からなる系はスピンで記述できる。 スピン(角運動量)は量子論的な不確定性を持つが、 不確定性関係を保ちながら一方向のゆらぎを減少させることは可能である。
平均スピンベクトルに垂直な成分の揺らぎ < 平均スピンベクトルの長さ/2
を満たすとき原子系(スピン)スクイズド状態と定義する。


原子系スクイジングの発生法

前述のようなスクイーズした原子系は、次のような方法で生成できる。 はじめに原子を全て上準位に上げ、それを high-Q 共振器中で コヒーレント状態の電磁場と相互作用させる。 相互作用は Jaynes-Cummings モデルを使う。 適当な相互作用時間の後原子を取り出すとスクイーズしていることが示せる。

光源としての利用法

図のような実験装置を用いて、次のような手順で行なう:

  1. 前述の方法で原子系をスクイーズさせる。(第一の cavity)
  2. スクイーズした原子系に classical field を照射して、 スピン空間で適当な方向に回転させる。(第二の cavity )
  3. このようにして用意した原子系を真空の cavity に通し、 スクイズド光を放射させる。(第三の cavity)
ここで (2) のスピンを回転させるというのがポイントである。 回転角や回転軸は classical field の強度や位相差で調節できる。

この実験を 50 原子に対して数値的にシミュレートしたものが図である。

左は第三の cavity に入る直前のスピンの状態を Bloch 表示し z 軸の下から 見たもので、右は放射場の直交位相振幅が最もスクイーズしたときの Q 表示である。 スピンの不確定性の向きに応じて、放射場は振幅スクイズド状態(A)にも 位相スクイズド状態(B)にもなり得る。

このようにスピンを単に回転させるだけで、放射場のスクイジングを 制御することができる。 そしてそのためにはスピンはスクイーズしている必要がある。

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